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○○は今日もまた、お揚げを用意してくれているだろうか。 最近はずっと○○のところに入り浸っている。 もちろん、式として必要な仕事は全て済ませているのだが…… 私は彼のことが好きだ。 だが、他の者に少しどころではなく優しいところがあるのは玉に瑕である。 もう少し、私の気持ちを知ってほしい。 そう考えている間に人里に着いたようだ。 ○○のことを想像すると、時間がいつの間にか過ぎている。 そのことが頭を過ぎると、少し顔が赤くなったような気がする。 「……っ!」 雑貨屋の前に○○が居た。 居たのだが、○○の隣に居てはいけない者がいる。 どう見てもアレは女だ……隣に居るべきなのは私のはずなのに。 嫉妬が湧き上がるが、何とか抑える。 あの女は普段見ることがない、その上見たところ、ただの人間だ。 何か事情があって一緒に居るはずだ、そう信じたい。 ○○の方を注目して見ると、勾玉をあしらったアクセサリーを手にとっているのがわかる。 これから買うのだろうか。 もしもあのアクセサリーを私に手渡してくれるのだとしたら、どれほど幸せな気持ちになれるだろうか。 考えるや否や、○○はそれを女の手に乗せた。 「……さんにプレゼント…… これ……こんで……るかな……」 「……がとう……うれしい……れるよ……」 嘘だ。 言葉の端々から聞こえるものを繋げると、○○はあの女にプレゼントをあげようとしている。 嫌だ。 あんな普段は見ないような女に、○○が盗られてしまう。 信じたくない。 しかし目の先で笑い合っている二人を見ると、どうしようもなく現実なのだと思い知らされる。 盗られたくない。 嫌だ、あんな女に○○を盗られたくない。 そう考えた後の行動は、凄まじく速かった。 「うわぁ!?」 ○○が悲鳴を上げるが、そんなことを気にしてはいられない。 早く、一刻も早くあの女から遠ざけなければならない。 そうしないと私の○○が、あの女に誑かされてしまう。 転移する前にチラッと女の方を見たが、あの驚き様は間抜けと言う他にはない。 ○○のことを誑かしたのだから、このぐらいの報復はあっても良いだろう。 本当は消したかったが、○○の悲しむ顔は見たくないし その後のことを考えれば消すわけにもいかない。 「あ、あなたは……藍さん?」 「いきなりですまない、○○」 困惑する○○を目の前にして、少し目を伏せてしまった。 多少なりとも、○○の幸せな時間を奪った罪悪感はあるのだ。 少しの時間が経つが、互いに未だ沈黙を保っている。 私はその中でぽつりと、考えていたことを喋った。 「盗られたく、なかったんだ……」 ○○が不可思議な顔をする。 これだけではまずわからないだろうと、次の言葉が自然と出てくる。 「○○のこと、あの女に盗られたくなかった…… だから……」 涙が零れてくる。 呂律も全くまわっていない。 出てくる言葉はよく聞こえない物と、自身の嗚咽のみだった。 状態を察したのか○○が背中に腕を回してきて、子供をあやすようにぽんぽんと叩かれている。 そのことに少し安心した私は、なんとか次の言葉を紡ぎ出した。 「捨てないで……私のこと、見捨てないでっ……!」 哀願の言葉しか出てこなかった。 あの女から引き離すためにこんな手段を取ったと知られたら、どれだけ失望されるだろうか。 そう思うとこんな言葉を出すしかなかった。 「大丈夫です、藍さん。 俺はあなたのこと、見捨てたりしませんから」 「本当……? 私のこと、捨てたりしない?」 「しませんよ」 その言葉に私は、みっともなく泣き出してしまう。 ○○は私のことを見捨てたりしない。 暖かい気持ちでいっぱいになって、○○に抱き付きながら目一杯泣いた。 落ち着いた私が○○と向き直ると、○○から説教が飛んできた。 どうしてあんなことをしたのかと言われ、見ていたことを話すと苦笑しながら話してくれた。 「あれは藍さんへのプレゼントだったんですよ」 恥ずかしいなんてものじゃない。 私が空回りをしていただけなのだ。 あの女性は曰く、女の子へプレゼントを贈るならどれが良いかと聞くために アドバイザーとして着いてきていただけらしい。 後で謝りに行きましょうと○○に言われ、私は何をしていたのだろうと思う。 もしかしたら、○○に少し嫌われてしまったかもしれない。 でもプレゼントを贈ってくれる予定だったからと、その可能性を否定……は出来なかった。 そう考えているうちに涙が出ていた。 ○○に涙を拭かれ、それじゃあ謝りに行きましょうと、手を引っ張り上げてくれた。 願わくば○○と一生一緒に居られますように……
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地底から一人の妖怪が出てきたが、誰もが気づけなかった。 出てきた妖怪の名は古明地こいし、地霊殿当主の古明地さとりの妹で同じ覚り妖怪だ。しかし、この姉妹には相違点がある。 それは心を読むための目、第三の目があり、こいしのそれは閉じてしまっているのだ。 故に彼女は心を読むことができないし、誰にも心を開くことがなかった。 だが、代わりに得たモノがある。それは『無意識を操る程度の能力』だ。これにより、彼女は誰にも覚られず、認識されずに行動できるのだ。 こいしは思うがままに闊歩した。そしてある日、運命の出会いをした。 その日もこいしは地上をぶらぶらしていた。すると、人里からも、外来人が住む集落からも離れた位置にポツンと一軒家があり、その近くで焚き火をしている男がいた。 ただの興味で近づき、対面に行くと、どうやら男は川魚を焼いているようだった。それを見ているとこいしのお腹の虫が鳴き出した。すると―――― 「……食うか?」 驚いて目をぱちくりとし、少々の間固まってしまった。 「食わんのか?」 男は怪訝な顔をしながら言った。 「私がわかるの?」 「……? 何を言ってるんだ。目の前にいるんだから当然だろう」 こいしは何だかわからないものが胸に溢れていた。遥か昔に体験したことのあるそれを思い出すことはできなかった。 焼き魚を御馳走となり、二人はお互いのことを話した。 男の名前は○○。例に違わず外来人で、元々根無し草で暮らしてきていたため幻想郷に根を下ろすのも良いかと考え、留まることを決めたらしい。そして、こいしのことを認知できたのは、彼が実は能力者で、『ありとあらゆるものを認識する能力』を持っているからだそうだ。集団から離れているのもこの能力のせいで四六時中濃い存在感の中にいるのが嫌だということらしい。集中すれば半径500mいないの全てを認識できるらしい。 ○○はこいしのことを聞いても、ふうん程度の反応しか示さなかった。それが少しこいしは気に食わなくて、もっと興味を示してもらうために色々なことを喋ったし、色々なことをした。 こいしは気づかない。自分の変化に。 そして数日が経ったある日、男は言った。 「こいしに興味がない訳じゃないんだ。ただ、どうすればいいか戸惑っているだけで、むしろこいしのことがとても興味深い。というかぶっちゃけ好きだ」 瞬間、こいしの第三の目が大きく見開いた。そして、こいしの顔はみるみるうちに紅潮していき、そこでやっと、胸にあるものがなんなのか気付いた。 (そうか、私は……○○のことが大好きだったんだ) しかし、感情の正体がわかったところで、今まで封印してきたものを簡単に扱えるわけもなく、こいしは持て余していた。 (どうしよう……どうすれば……) 「すまんな。困らせてしまったな」 ○○の申し訳なさそうな顔をみて、こいしは慌てて首を横に振った。 「そ、そんなことはないわ! 好きと言われて私も……その、嬉しいし……」 「そうか、良かった……」 ○○の安堵した表情を見て、今度は少し悪戯をしたくなり、こいしはあることを思い付いた。 「うん、そんなに私のことが好きなら、今度からは○○が私に会いに来てよ! 私は全力で隠れるから!」 「ああ、いいぜ。まあ、俺の能力を持ってすればこいしを見つけるなんて容易いさ」 こうして、○○とこいしのかくれんぼが始まった。 ○○は宣言通り必ずこいしを見つけた。その度にこいしは○○をもっともっと好きになっていった。 そんなある日。 「やあ、○○じゃないか。最近はよく人里に来るようになったな」 ○○に話しかけてきたのは、人里の重鎮である上白沢慧音だ。○○の能力や事情を理解してくれている数少ない人物である。 「ええ、人探しをするようになりましてね」 ――――それを見た少女の心になにか暗く淀んだものが生まれた―――― しばし、○○と慧音は雑談をし、少し話しすぎたということを感じた辺りで慧音と別れた。 「――――なんで?」 突如背後から声が聞こえてきてビクッとして○○は振り向いた。 「!? こいし? ここにいたのか」 普段であればわからないはずはないのだが、今のこいしの気配は○○の能力を持ってしても気づけなかった。 「なんで?」 こいしは繰り返し問う。 「なんで? ってなにがだ?」 ○○にはなんのことだかさっぱりわからなかった。 「なんで、私を探さないで他の女なんかと楽しくおしゃべりしてるの?」 こいしがなぜ不機嫌なのか○○にもやっとわかった。 「すまんこいし。決してお前を疎かにしていたわけじゃないんだ」 しかし、○○には理由はわかっても、こいしの中に生まれた何よりも暗いものの存在には気づけなかった。 「そう……そうだ! いいことを思い付いたわ」 こいしは満面の笑みである提案をした。それは地底のどこかにこいしが隠れるというものだった。必然的に○○もこいしを探しに地底へ行くことになる。だが、○○は快く承諾した。 ――――こいしの目は暗く濁っていた。○○はそれに気づくことができない―――― こいしの計画は完遂されるはずだった。○○を地底に呼び、そして、己だけのものとするために地霊殿に縛り付ける。そうなる、はずだった。 もう一週間経っている。しかし○○はこいしの元に訪れない。こいしは自分の爪をガジガジとかじり、出血するに至っていた。 なぜ来ない? また女か? 様々な疑問がこいしの胸に去来する度にこいしの胸の暗く淀んだものが大きくなる。 そして、こいしは○○を探しに行った。 結論から言うと、○○は見つかった。ただし、食い荒らされた状態でだ。 「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 この瞬間こいしの中の何かが完全に壊れた。 こいしの絶叫を聞き付け、旧都代表の鬼、星熊勇儀はそこへやって来た。その時には、こいしは震えるばかりで、どんな質問にたいしても「わたぢのせいだ」と泣きながら繰り返すだけだった。 勇儀は大体の事情を現場から推理し、さとりに話し、こいしと○○の死体を渡した。 さとりはこいしをこんなにした○○の死体を憎らしげに見つめ、お燐に言い、灼熱地獄に落とさせた。こいしには落ち着いたら話そうと決めた。 それからしばらく、こいしは心身が衰弱しているということで、地霊殿で療養した。 そして、さらに数日が経過した。 「こいし! あなたそんな状態でどこへ行くというの?」 こいしは虚ろな目をさとりへと向けてニコッと笑い言った。 「……お姉ちゃん、○○のところに決まってるじゃない」 こいしは冗談でもなくそう言っているのだとさとりは理解し、戦慄した。 「なにを、言っているの? ○○は死んだのよ? もうどこにもいないのよ!」 するとこいしは激昂し、さとりの胸ぐらを掴んで持ち上げた。 「かっは!」 「○○は! ○○は死んでない! ○○は待っているのよ。私を……かくれんぼの鬼は見つかったら交代しなくちゃいけない……だから今度は私が○○を見つける番」 そう言ってさとりを離し、こいしは歩き出した。 「ま、待ちなさいこいし!」 こいしは立ち止まり、グリンと首だけを回し、さとりを見た。 「ヒッ!」 さとりは言えなかった。○○を灼熱地獄に落とさせたことを。そんなことを言えば殺されかねなかった。 こいしはもう戻っては来ない。さとりは確信した。 「もう、みんな煩わしいなあ。私を見つけて良いのは○○だけ。○○を見つけて良いのは私だけ。貴方だけが私を見つけてくれて、私だけが貴方を見つけられる……くふ、くふふふふ」 こいしは虚空に向かってそう言った。 その後、こいしの姿を見たものはいないという。
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タグ一覧 ナズーリン 勇儀 屠自古 布都 慧音 星 権力が遊ぶときシリーズ 白蓮 上白沢慧音が、その自らにとっても大きな自慢でもある、胸を強調したような密着の効果はやはり大きかったようで。 不意に上白沢の旦那が、慧音の胸にも触れるような形で寄りかかってきてくれた時には。慧音の喜びと言うか愉悦は、最高潮に達したのは言うまでもないと、上白沢の旦那は、そう思いたかった。 「失礼しますね」 けれどもその『思いたい』と言う部分を、上白沢の旦那がしっかりと認識する前に。もっと酷くなったという部分だけを強調して、認識せざるを得なくなってしまった。 聖白蓮の声が、間違いなく上白沢慧音の中にある対抗心と言うやつに火をつけてしまったが。 そもそも手紙を持ってきたのは上白沢夫妻だし、返事はその場で聞きたいと言ったのも上白沢夫妻だ。 こうなってしまうのは、定められた道筋と考えるべきなのかもしれない。 ――無論、ふすま越しで構わないと言い張ってしまおうかとも、上白沢の旦那は少しだけ考えてしまったが。 聖白蓮と寅丸星の、命蓮寺の二大巨頭が――慧音にとっては体も含めて――あの手紙を見たという事は。物部布都の事も書いてあるだろうけれども、命蓮寺にとって一番の問題は雲居一輪のやった事だ。 彼女が人質――ネズミだが――に取っているネズミたちの事、そしてその奪還作戦を天狗の力まで借りて行った事。 今日の今日で手紙まで命蓮寺に渡しているという事は、その事も書いてあると思うべきだ。 ナズーリンは仲間を殺されかけているし、物部布都の所属する神霊廟とは激突の危険性がはらんでしまったし。 そうならないために稗田家が、上白沢夫妻が、気位の高さが往々にして問題視される天狗の力まで借りている。 深刻に受け止めるなと言われる方が、最早どうかしている状態である。もっと早い段階で知りたかったとも思うけれども。 雲居一輪は巧妙に、ナズーリンの手下を人質にまで取っていたのでそれも叶わなかった。 真面目な人柄が有名な聖白蓮が、顔を見せないわけにはいかない。 「その……入りますよ?上白沢ご夫妻」 だが同時に、上白沢慧音が一線の向こう側だと言う事は。聖白蓮の美貌を目当てに来ている連中が多いのと同じく、公然の秘密である。 少しでも偉くなれば、この事は知っておかなければならない。聖白蓮ほどの、中々以上の勢力の首魁を張っているのであれば、その事実は本能にまで刷り込んでおかなければならない。 だから聖白蓮は、自勢力の本丸ともいえる場所だと言うのになぜか、一思いに部屋に入っては行かなかった。 聖白蓮も自分の肉体的魅力の高さには、自覚せねばやってられない位の物がある。 これならば命蓮寺にとっては、商売敵で潜在的な天敵である神霊廟の者が。たとえ乗り込んできたのが豊聡耳神子であっても、一線の向こう側である上白沢慧音を妻にしているその旦那が来るよりも、遥かにマシだったであろう。 「ああ、もちろん。お邪魔しているのはこっちだ、何をそんなに気にしているんだ?」 上白沢の旦那はヤバいなと思いつつも、どんな言葉を出せばいいのか全く思いつかなかったら。先手と言うか、場の主導権は慧音が持ち去ってしまった。聖白蓮も寅丸星も、これは中々取り返しにくいのが実情ですらある。 雲居一輪の事で負い目があるから、余計にそうなる。 「……それもそうですね」 若干の間が出来上がった後、聖白蓮は勇気を振り絞ってふすまを開け放った。――勝手知ったる自宅のはずなのに、それだけ一線の向こう側は厄介なのだ。 こんな連中ばかりだ、幻想郷は。寅丸星は仏門らしくもなく、思わず腹の底で毒づいた。 「この度は……うちの門弟である雲居一輪が。大変な事の中心に居座ってしまったようで。お手紙を頂くまで、全く、何も知らなかったからと言い張るような真似は致しません」 聖白蓮はキレイな所作で、ふすまを開けて入ってきて、そしてやはりキレイな所作で聖白蓮は正座のままで頭を深々と下げ。明らかな、謝罪の姿を見せた。 それはまぁいい、と言うよりは仕方がない。問題はこの後だ、きっと着替える時間もなかったのだろう、聖白蓮の衣装は、初めて幻想郷にやってきたときと同じ物であった。 バイクを乗り回すときに使っている、体の線を強調したライダースーツでないだけマシだったかもしれないが。 胸の辺りに回された紐のようなしつらえは、聖白蓮の肉体的魅力、特に胸を強調して語るうえで、頻繁に言及されている。 少しばかりめまいを上白沢の旦那は覚えた、もちろん慧音以外の女性にそういう事を感じた意味でのめまいではない。 きっと聖白蓮は今すぐではないにしても、近いうちにおいて、今回の不始末の謝罪と詫びを入れるために、稗田家に向かうだろうし。 聖白蓮の性格を考えれば、あの手紙に『来い』と書かれていなくても来るだろう。 けれどもこんな服装では来てほしくなかった。慧音は肉体的魅力のすべてに自信があるから大丈夫だけれども、間違いなく稗田阿求が苛まれてしまう。 お人よしとは聞いていたが、いっそ人気取りのための演技であってほしいが。そんな気配は、頭を下げてくれた聖白蓮からは見えなかった。 残念この上ない事だと、意地悪な考えが浮かんでしまったが。指摘しないと言う事はあり得なかった。少しでも不安に思うのならば、今夜は慧音がその気になったらしいとは全く別の意味で眠れなくなってしまう。 純粋な恐怖で、眠れなくなってしまう。 やはり聖白蓮には何か、せめてその服装で稗田家には来るなぐらいの事は。ぶしつけであることは十分に承知しているが。 生々しい事を言ってしまえば、こちらの恐怖心を減らすと言う精神衛生上の問題にだって足を突っ込ませる必要性が出てきてしまうのだ。 聖白蓮に対して、せめて肉体的魅力を隠す服装で稗田家に来てくれ、と言ってしまうのは。もちろんここまで直接的な表現は使わないけれども。聖白蓮と寅丸星、このどちらかが、きっと両方とも気づいてしまうだろう。言いたいことの本丸と言う部分は。 しかし、出来るだけ柔らかい表現を使ってやらねば位の事は、命蓮寺に対して雲居一輪に振り回されているのだから、同情的に考えながら。柔らかい表現を探していたら。 「どうした?」 少し、不味ったかもしれなかった。上白沢の旦那がずっと、聖白蓮の方を見てしまっていたのだから。 稗田阿求ほど酷い――こんな感想、抱きたくなかった――訳ではないが、上白沢慧音だって一線の向こう側なのだから。 この時の慧音の声は、明らかに硬かった。 こんな自分でも寺子屋では慧音と一緒に、ずっと教鞭をふるっているのだから。普段と不味いときの声色の違い位、夫であるならば聞き分けられる。 上白沢の旦那は、それが重要で今すぐ解決すべきであろう課題とはいえ。聖白蓮を見続けたのは悪手だ、それを腹の底で悔やむような呻きを感じながらだが、慧音の方へ旦那の方から近寄った。もっと言えば、密着の度合いを――すでに十分強いが――強くすることにした。 「うん、いやね」 上手い言葉なんて、何も思いつかないけれども。何もしないよりは、絶対に悪くはないはずだ。 実際慧音の顔つきは、ほころぶとまでは行かないが安堵の雰囲気は多少なりとも見えた。 少なくとも現状をよくするためのとっかかりは、まだ十分に残されていると判断してよかった。 そしてこのとっかかりを十分に利用し、また確保し続けるには。こちらは誠実である必要が、どんなに最低でも嘘をつかないで喋る必要がある。 だが天狗みたいな意味での、嘘はついていないと言う喋り方は絶対に避けるべきだ。 「少し、気になる事があって」 そう上白沢の旦那は言いながら、妻である慧音の耳元に寄って言った。先ほど感じたことを、稗田家に来る際は稗田阿求を刺激しないように、あの服装はやめさせるべきだろうと言う事を。 ここまで来たらその言葉は、自分でなく慧音に言わせるべきだとも思いながら。 そしてその慧音への耳打ちの際、聖白蓮はおろか寅丸星の方すら見ないように、努力していた。 寅丸星は、どうせ見ないんだろ?と言う部分に嫌と言うほど気づいてしまったから、喉奥から抗議の意味しかないうめき声を出していたが、聖白蓮にたしなめられてしまった。 「一線の向こう側……なるほど。理解できたよ」 しかし腹立ちを抑えるだなんて、そもそもがいきなりやってきた上白沢夫妻の方が、明らかに失礼なのだから。寅丸星がボヤいてしまう事ぐらいは、許さねばならなかった。 聖白蓮がじゃない、上白沢夫妻がである。 上白沢夫妻が、特に上白沢慧音が度し難いこだわりを発揮してしまい、上白沢の旦那の言葉を直で聞かせたくないと思ってしまったころ。 「少し演劇風味が強すぎるかなと言うのは、まぁ、自分でもわかっている」 稗田○○がそう言うが、けれども何となく楽しそうに言っている。 それをナズーリンがどうだこうだ等と言う事は、上白沢の旦那ですら危ないときがあるのに出来るはずはない。何より今まさに、稗田○○以上に稗田阿求が愉しんでいるのだから。 「……配下のネズミたちがみんな助かれば、何だっていい」 だからそれぐらいしかいう事は出来なかったし、ナズーリンの方も下手に会話しない方が良いと気づいたので、小さい声で早口に言って終わらせたし。 配下が助かればもうそれでいいと言うのは、限りなく純粋な気持ちでもあるのだから。 そう言いながらナズーリンは用意された人力車に乗り、稗田夫妻も夫婦専用の物に乗っていった。 ネズミではなくて、雲居一輪の方に軸足を変えて調査した甲斐はあったと稗田○○は嬉しそうだった。 物部布都が遊郭街にて、洩矢諏訪子とも顔見知りになり。布都の方もそれを狙って、後ろ盾にしようとしている節もあるけれども、星熊遊戯の拠点に通えるようになった事に対する、雲居一輪なりの対抗意識が働いている事が、調査の結果判明していた。 あの歩荷の家は、元々整理整頓の上手い人間だと言う事もあったので気づきにくかったが。道具類のほとんどは、今現在は雲居一輪が持っている倉庫――あの歩荷の為に借りたという事はさすがに伏せているが――にほとんどが収納されていた。 雲居一輪の脳内では、あの歩荷の私物を独占できるという愉悦を感じる事で、猥雑な商売を斡旋、紹介している物部布都とは違うと思いたがっているのかもしれなかった。 事実、カラスが覗き見ていたところ。雲居一輪は実に恍惚な笑みを浮かべながら掃除をしたりなどの手入れを行っているそうだ。 物部布都が遊郭街を拠点にしている分、彼女は清廉な自分に愉悦を見つけているのかもしれないと、稗田○○がナズーリンに渡してくれた報告書の写しに、そんな走り書きがなされていたが。 ナズーリンはその『清廉』と言う言葉を見て、酷い不快感を覚えた。 無理もないだろう、彼女は今現在、天狗やカラスが飛び回って救出作戦を開始しているとはいえ、まだそれは終わっていないのだから。 完全に終結、救出作戦が完了するまでは安心などは出来なくても、無理はない。 呼んでいるうちに不快感をこらえる事も難しくなってきたので、ナズーリンは報告書を折りたたんでしまいこんでしまった。 どうせ、自分は待つしかできない。調査も用意も号令も、全て稗田○○がやってしまっている。もう終わったという言葉を聞くだけで済ませてしまいたかった。 だが人力車が止まった折に外を見たら、同じ危機感を教諭できている蘇我屠自子が心配そうな顔で駆け寄ってくるのを見れば。 意識的に大したことを考えないようにしていた、ナズーリンの思考回路も、再び動かさないわけにはいかない。 「ナズーリン!」 ナズーリンが何かを言う前に、屠自子は人力車に飛び乗ってしまった。それを待っていましたと言うかのように、人力車は再び動き出した。 前を走っている人力車に乗っている稗田○○が、後ろにかかっている目隠しのすだれを少し持ち上げて、ナズーリンと屠自子の動きを嬉しそうに見てくれていた。 善意からの行動と言うのは、信じてやれないことはなかったが。お節介だとも、感じてしまう。 「なんで言ってくれなかった!お前の所の配下が、命が危ないっていうのに!何か手伝えたかもしれないのに」 そして屠自子は案の定、ナズーリンの心配をしながら相談もしてくれなかったことを非難してきた。 立場が逆であれば、ナズーリンだって同じような事を言うだろうが。きっと屠自子も隠れるだろうなと、間々ならないなと言う皮肉な面白さを感じてしまった。 だがこの状況では、悪いのはナズーリンの方だろう。だから努めて、落ち込んだ様子を出すしかなかった。 「そうは言うがね、屠自子。雲居一輪は命蓮寺の配下で、私も一応は命蓮寺の存在だ。一緒に住んでいないと言うだけで、まぁまぁ泊まってるし、命蓮寺には私の布団も部屋もあるから」 「だから、神霊廟の蘇我屠自子は、私は巻き込まないほうが良いと思ったのか?」 「そうだ。自勢力ならともかく、他勢力に面倒をかけるわけにはいかない」 「雲居一輪と物部布都は同じ穴のムジナだ。どちらかが何かをやれば、もう片方もロクな反応をしない。両方共を一気に無力化するべきなんだ。雲居一輪のやった事は確かに悪辣だが、それを知った物部布都はこれ幸いにと、大義を得たと言わんばかりに何かロクでもないことをやる。そういうやつなんだ、物部布都は!だから雲居一輪を無力化するのは物部布都を無力化することにもつながるんだ、頼むから次は相談しろ!!」 ぐうの音も出ないとはこのことであった。ナズーリンはしきりに「すまない」と言うのみであったが。 蘇我屠自子にとっては、もうこの問題は終わったものと認識しているようで。それ以上ナズーリンを非難することはなかった。 それよりも、物部布都の性格をよく知っているがゆえに、あいつが次に何をやるのかを考えて頭を痛めていた。 「そうだ、何かやる。物部布都は何かやる。事情を少しでも知れば、猥雑とはいえ商いを紹介しているだけの物部布都に、大義を与えてしまいかねん…………」 確かにその通りだろう。雲居一輪のやった事は悪辣そのものである、非難するがわに回れると言うのは厄介なものだ。 その上物部布都は間違いなく、一線の向こう側なのだから。 だがナズーリンも蘇我屠自子も、一線の向こう側に対する認識がまだ足りていなかった。 バレなければ問題ないと考えて、稗田○○の近くに盗聴用の式神を配置すると言う事は。 既に、ナズーリンや蘇我屠自子の近くにも配置されているという事である。 物部布都はいやらしい笑みを浮かべながら、ナズーリンと蘇我屠自子の人力車内での会話を聞いていたが。 既に遊郭街にいるはずの物部布都に対しては、稗田○○が手を回していた。洩矢諏訪子もよほどの事でない限りは、稗田○○の『お願い』に対して、無批判に実行する。 そっちの方が結局、稗田阿求の機嫌もよくなるのだから。それに稗田○○は遊郭街をつぶす事には消極的だから、余計に稗田○○のお願いであるならばすぐに実行できる。 「おう、仙人様!」 酒や飲み会や、騒々しいのが好きな鬼であるならば。物部布都も誘って楽しもうじゃないか、と言った具合に言葉を使えば。 洩矢諏訪子ほどのくせ者であるならば、造作もなくそういう風に状況を動かす事が出来る。 それに今回は、物部布都から何かを探る必要はなかったから。余計に簡単であった。 「山の神様とも一緒にいるんだがな、いろんな奴誘って楽しもうぜって話になったんだ!お前も来いよ!!」 そういって星熊勇儀は、物部布都から返事なんぞ聞く前に、彼女の腕を引っ張った。 やられた、稗田○○がもう動いた。 物部布都はそう悔やんだが、状況を知っている事を知られていない物部布都が、最も有利な位置にいるのは変わりないので。 前祝いでもするか、ぐらいの気持ちにはなれたし。 星熊勇儀が飲みすぎて酒で汚すのだろう。衣服や、下着……そう、下着もだ。 下着も運んでいる男の、若い板前を見るに至っては。星熊勇儀も多分こっち側だと思い。 まぁいいかと言う思いは、より強くなった。 感想 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/2053.html
今頃、あの人は何をしているだろうか―― ちゃんとご飯食べているのだろうか、心配だ―― あの人、○○とは私が人里に向かう途中で出会った男だ。最初に見つけたとき彼は道端で倒れていて脚から血が出ていた。放っておくわけにもいかない。しかしこの姿のままではまずい。とりあえず人の姿に化けて、彼に近づいた。 「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」 どうやら脚の出血はたいしたことはなさそうだが―― 「.......ん.....あ......ここは.....?」 「よかった、意識が戻ったようだな」 「.....あんたは?って痛てぇ!!!!」 「もしかしたら足が折れているのかもしれないな。自己紹介は後だ。今、治療に使えそうなものはないんでな。お前の家は何処だ?」 「...あ...ああ、里の呉服屋の近くだ。....ってうわわ何すんだ!?」 「おぶってそこまで運んでやるんだ。そんな脚ではあるけまい?」 「う...動けねえけどよ、女におぶってもらうなんて......」 む、歩ける状態ではないのにわがままな奴だ 「じゃずっと此処にいるか?」 このままではなかなか決めなさそうなので少し強く言った。 「......家まで...お願いします...。」 「私は藍だ。人里から離れた場所に住んでる。」 いや、住んでる場所まで言わなくてもよかったかな。後でめんどくさいことになるかもしれないし。まあいい。こいつの看病したらとっとと帰ろう。人と長く関わるのは面倒だ。 「俺は○○だ。」 ○○か、いい名だ。 「○○よ、お前なんであんな道端に倒れていたんだ?」 「え?...そっ..それは、まあ秋になったし?山の紅葉はすごいんだろうなぁと思いまして...」 「山に入ったのか」 「うっ...でも実際素晴らしかったぞ!いやあ藍さんも観に行ってみるといい!」 「話をずらすな。観に行くだけでそんな怪我するまい。何があった?」 「よ...妖怪に会って......。」 「攻撃されたのか...。」 「弾幕の衝撃で坂を転がり落ちちまってさ....。んで気が付いたら藍さんが。」 そりゃ妖怪の山なんだから妖怪はいるでしょうに...。最近の人間は妖怪の危険性が分かっていないのか?妖怪からしたらいい餌だな。 「言いたいことは色々あるが、まずは怪我の治療が先決だ。もうすぐ里に着く。」 「すまん...。ありがとう。必ず礼はする。」 「礼など気にするな。お前は治療に専念しろ。」 「ああ、そうする。........優しいな藍さんは。」 「人は皆、助け合って生きてるだろう?私だけがということはないさ。」 「いや、優しいよ藍さんは。」 「......そうか....」 なんだ?急に...。誰だって目の前で倒れてたら声ぐらいはかける。怪我をしていたら尚更だ。放ってはおけない。人喰い妖怪は別だが。.....っと、もうすぐ呉服屋だ。 「ああ藍さん。そこだ。そこの家が俺の家だ。」 ここが――? なんだか随分ボロボロだな。 ほら、脚だして。」 「こうか?.....いっ!!痛てぇ!!!!」 「反応が大げさだ。少しは我慢しろ。」 「ぐっ....!!お...終わったか?」 「あと少しだ......。ほら終わったぞ。どうやら折れてはいないようだ。さすがに私も詳しくはわからないからあの八意の医者に診てもらうのが一番かな。」 「ん。わかった。ありがとう藍さん。ほんと助かったよ。」 「どういたしまして。さて、○○はまだ昼飯を食べていないだろう?何を食べたい?」 「いやいや、飯まで作ってもらっちゃ悪いぜ。怪我の手当てだけで十分だ。これ以上世話にはなれん。」 「そんなこといって、その状態で作れるのか?作れないだろう?遠慮するな。」 こんなのでまた怪我したなんて言われたら気分が悪い。飯炊きぐらい頼ってほしい 「...わかった、お願いするよ。」 「最初からそうしろ。で、何にする?」 「藍さんが作れるものでいい。俺、普段料理なんてしねえからな。なんでもいいんだ。」 「○○、食事はちゃんと偏りなく摂らないといけないぞ。」 「......慧音先生みたいなこと言うんだな、藍さん。」 「大事なことだ」 「まあ、任せるよ。」 「任された。」 早く良くなるよう沢山食べてもらわないとな。毎日、紫様のお食事を作っているんだ。 腕に縒りを掛けた料理を作ろう。楽しみにしていろ、○○―― 「ほら、できたぞ。冷めないうちに食べてくれ。」 ○○の家には物が少なく、大した量は作れなかった。 それでも味には自信がある。 「あー、ありがてぇ。美味そうな匂いだ。いただきます。」 「......どうだ?口に合うか?」 「...うめぇ。うまいよ藍さん!驚いた、作る人が変わるとこんなに飯も変わるもんなのか。」 「そうか、そうか。よかった。」 自信はあったが、まずいと言われたらどうしようかと。気に入ってくれてよかった...。 「いやあ、うまい、うまい!この魚の焼き加減もなかなk...ごっふ!ごほっ!!ごほっ!!!」 「どうした!?や、やっぱりまずかったか!?い、いやそれよりも○○!大丈夫か!?しっかりしてくれ!!」 「うっ!み...みず......。] 「水だな!!わかった!すぐに持ってくる!」 急いで、急いで持って行かなきゃ! 「ほら水だ!持ってきたぞ!」 「ん!んー........ぷはぁ!!ありがとう!...はは、あまりに美味いんでつい慌てて....。」 「えっ?ま、まさか咽ただけなの?」 「うん、咽ただけです」 「なんだ...........。まったく、今度は落ち着いて食べなさい。」 「へへ、分かったよ。でも藍さんがあんなに慌てるなんてな。」 「だ、誰だって慌てるさ!!ほんと焦ったのだからな!」 「すまん、すまん。でもなんか水渡してくれた時の顔が藍さんらしくなくてさ。」 私らしくない?○○は私にどんな印象を受けているんだ? 「...なんだそれは。どういう意味だ...?」 「ちょっと可愛かったかなーって話。」 「ばっ!ばか!からかうんじゃない!!こっちはお前が心配だったのに!」 「ははは、今後は気を付けるから。」 「はぁ、お前のこの先が心配だよ...。」 この調子ではまた何かやらかしそうだ...。なんだか不安だ......。 それからというもの、私はほぼ毎日○○の家に通った。 朝、彼が起きる前に朝食の支度をする。彼は何でも美味いと言ってくれるが、特に味噌汁を気に入ってくれたようだった。少し薄めの赤みそ。出汁は煮干しで。具は豆腐と油揚げ。それに少々ネギを添える。シンプルだが一番美味いと彼は言う。 朝食後、さっと洗い物を済ます。 食器を洗うぐらいなら俺でもできると手伝おうとしていたが怪我人は怪我人らしくしていなさいと一喝した。 ○○は度々、手伝うと申し出ていたが、私は足の怪我を早く治すことだけを考えろと断った。 「はぁ~......。藍さん。あんたにゃ世話になりっぱなしだ。早いとこ治して礼がしてえよ。」 「気にするな。私が勝手にやっていることだ。それより一度は八意の医者に診てもらった方がいいだろう。洗濯物を干し終えたら行くぞ。」 「そうだな。早く治したいし、行ってみるか。でもあそこって迷いの竹林があんだろ?大丈夫なのか?」 「あの竹林には案内人がいる、心配ない。」 「そうかい。ま、なんとかなるか。」 私に医学の知識があればわざわざ行かなくても診てやれるのだが.......。仕方がない。行くからにはあの医者にはしっかり診てもらわねば......。 「なぁ、藍さん。別にまた背負ってもらわなくても多少は歩けるぜ?」 「そうかもしれないが、無理はするな。なに直ぐに着く。そうだろう?藤原妹紅」 「まぁね。あそこは遠いようで近いんだ。昔はもっと奥にあったんだが、人里の連中が来るようになってからは距離が縮んだよ。とはいえ、普通の人間が入ったら間違いなく出れなくなるがな。」 この竹林はいかな大妖怪も迷わせる力がある。その力に月の頭脳と云われている八意永琳が目を付けた。月の民から蓬莱山輝夜を守るため、そこに永遠亭を建てた。 その蓬莱山輝夜と因縁深い、藤原妹紅が迷いの竹林から永遠亭まで案内してくれる。 本当ならこんな奴の手を借りずさっさと八意のもとへ行って、○○の怪我の具合を診てもらいたいのだが...。 私でもたどり着くのが困難なうえ、○○に私が妖獣だということを知ってほしくない。 いくら助けるためだとはいえ、妖怪が人に化けて近づいたのだ。やはり、いい気はしないだろう。こいつに....、この人に嫌われるのは紫様に嫌われるのと同じくらいつらい......。 なぜつらい?......それはこれほどまでに世話してやってるからだろう。 いや、しかし何か違う...。紫様は主人であって私はその式神である。式神はなにをおいても主が絶対。それに私は式になったあの日から、紫様を敬忠してきた。 なのに...。 「藍さん?どうしたんだい?具合でも悪いのか?」 「...えっ?あっ、い、いや大丈夫だ!何でもない!」 ○○に突然話しかけられ、はっとした。 「ん~?なんだ?あんたも病人かい?少し顔色悪いぞ。」 「私なら、大丈夫、平気だ。心配いらないよ。」 「無理はしない方がいいと思うけど...。ま、あとちょっとだ。頑張んな。」 「ああ。...○○は大丈夫か?足、痛まないか?」 「平気、平気。藍さんもあんま無理すんなよ?」 「少し、ぼうっとしていただけだ。気にするな。」 そうだ、思慮分別するのは後だ。今は○○が優先。 「あ、見えてきた。あそこが永遠亭。あとは自分たちで行って。私の案内はここまで。帰りはあそこの兎にでも頼んでくれ。」 「助かった、藤原妹紅。では、また。」 「ご案内、有り難う御座いました。藤原さん。」 「いいって。じゃあね、おだいじに。」 さて、早いとこ、怪我の具合を診てもらおう。何でもないといいな、○○ 「へぇ、結構、人いるんだな。」 永遠亭の中に入り、○○を椅子に座らせた。どうやら暫し待たないといけない様だ。....仕方がない。 「そうだな。すまないな、○○。もう暫く我慢してくれ。」 「別に藍さんが謝るようなことじゃないでしょ。気長に待つよ。」 「そうか。○○がそう言うなら...。」 「でも待ってる間暇だな。よかったらさ、藍さんの話とか聞かせてよ。」 「私の?いったい何を話せというのだ。」 「ほら、俺のことは色々と話しただろ?でも、俺、藍さんのことよく知らないんだよな。あ、いや、別に話したくないならいいんだ。ただ藍さんって人里には住んでいないっぽいから気になって...。」 そういえば、○○のことは本人から聞いた。○○は幼いころ、両親を亡くしているらしく、父母共々、外来人で親戚はいない。それをみかねた里の一人が○○を引き取り、育てていった。しかしその者も昨年の年頭に亡くなったらしい。 その話を聞き、憐れだと思った。 きっと、こいつは今でも寂しい思いをしてるに違いない。 ならば、今だけは、私がその空いた心を埋めてあげよう...。そう決めたんだ。 「...まぁ、話したくないことぐらい誰にだってあるよな。無神経だったよ。ごめん。」 また、あれこれ考えてしまった。 「...あ、そ、そんなことはないが......。うん、いずれ話すよ。」 正直、あまり話したくない。嘘をついて私のことを伝えてもそれは本当の私じゃない。だが、本当の私を伝えても、そのせいで○○が私を避けるようになるかもしれない。嫌われるかもしれない。そんなのは嫌なんだ......。 「そっか。ああでも、だいぶ人減ったんじゃないか?...っお?」 「○○さん、お待たせしました。中へどうぞ。」 八意永琳の弟子、鈴仙・優曇華院・イナバ。 ようやく、診察か。 「ではいくぞ。○○。」 「で、今日はどうされました?」 永遠亭の主治医。八意永琳。 「2週間前くらいに脚を怪我しまして。まだ少し痛むので診てもらいに。」 「成る程。...ちょっと診せてね。此処が痛いの?」 「ええ、...いてっ。」 ○○が顔を歪ませた。 「おい!優しくできないのか!!痛がってるぞ!!」 「大丈夫よ、大したことはないわ。随分としっかり処置されてる。この分だと後、もう2週間すれば治るわね。湿布でも出しておきましょう。」 そうか...。よかった......。 「藍さんのおかげだ。ほんと、有り難う。」 「いやいや、油断はするな。まだ治ったわけではないのだぞ?」 お前の行動はいつも肝を冷やす。私がいなければどうなることやら...。 「...藍?...あなた、あのスキマ妖怪の...。」 「!!...違う!!!私は人間だ!!」 思わず、カッとなり叫んでしまった。 「......。そう。...○○さん、少し外でお待ちいただけますか?ウドンゲ、彼をお願い。」 「あっ、は、はい。わかりました、師匠...。」 「え、あの、藍さん?いったい...。」 八意の弟子は、○○を連れ外に出ていってしまった。 「...さて。どういうつもりなのかしら?人に化け、人である彼を手当てとは...。」 「お前には関係ない。」 「私は医者よ?彼を診察したからには関係なくないわ。」 「...妖怪とて、人が倒れていたら助ける奴もいる。それだけだ。」 「あら意外。あのスキマ妖怪の式神が人を助けるなんて...。」 ふん、なんとでもいえ。 「私を謗る為に留めたのか?なら戻る。」 「待ちなさい。私が言いたいのはね、あなた、人と近づきすぎよ。」 なに...?私が...? 「どういう......。」 「あの子...、○○の怪我を診てわかった。異常なくらい完璧に手当てが施されていた。それも毎日、ね。あなたは妖怪。でも彼は人間なの。人と妖怪には越えられない境界が存在する。それは決まり事。どれだけあなたがあの子に尽くそうと、彼があなたと歩むことはないわ。」 「私が...、○○と......?」 「自覚してなかったの?断言...はできないけど、あなた、○○のこと好きなんでしょう?」 「す、き...?」 そう、なのか。私は...私は、○○が、好き、だ なんだ、気づかぬうちに、私は○○に思いを寄せていたのか―― ただ、気に掛かる人間だなとしか考えていなかった。そう思っていた。 私が仕えるのは紫様だけ―― 紫様の式神として一生を過ごしていく、それが全てだった。 だから、彼を、○○を救護したのは私自身、よくわからなかった。 ○○には、放っておけない、心配だからだと口では言っていたが、本当のところ思い悩んでいた。いくら人が道端で倒れていてそれを助けたとしても、治るまで看病をするのは人が良すぎる。怪我人は助けるのは当然、とはいえ家まで通うのはいささか度が過ぎる。 だが、深く考えるのはやめていた。ほんのきまぐれで世話をしてやっているのだ―― 怪我が治ったらまたいつもの生活に戻る。だから気にするのはよそう...。そう思い、頭の片隅に追いやった。 けれど、今なら分かる...。最初は良心からきたものだったのかもしれない。 しかし、日を重ねるうちにだんだんと心が惹かれていったんだ。この人の危なっかしいところも、私に向けた笑顔も、全部、全部、好き。いや、もう、これは"愛している"―― この愛は一体なんだろう? こんな気持ち、初めてで...。 いや、何でもいい、どんなものでも愛は、愛だ。 ふふ、ならば仕様がない―― ○○はこれからも私が、力になろう。私達、二人の間に境界など存在しない。 ああ、○○...。一時も離れずに居よう。 「ねぇ、ちゃんと話聞いてる?」 おっと、また思い耽てしまったな。 「ああ、ちゃんと聞いてるさ。...そう...だな......。確かに私は〇〇に惚れ込んでいる......。だが私とて、人と妖怪の境を理解していない程、淺くは生きてないよ。ただな、あいつはそそっかしいから、私が傍に居てやらないと何を仕出かすか分からないんだ。後2週間。そしたら、あいつの元から離れよう。」 こうでも言わないと、こいつは私を帰さん。医者として〇〇の身の上が気になるのだろう。 だが、そうはさせない。なんとしてでも〇〇と生涯を共にするのだ。どんな手を使っても...。 「.........。わかったわ。勝手にしなさい。忠告はしたわよ。」 「ではこれで失礼する。...診察代はこれくらいでいいか?」 「ええ。.........妙な事考えないでね。」 「藍さん!!もう、いったいどうしたってんだい?」 〇〇が摺り足で私に近づいてくる。もう、わざわざいいのに。だけど嬉しいなぁ。可愛いやつめ。 「何でもないよ。......それより無理はするな、ほら、乗って。帰ろう?」 猫背になり、背中に乗るよう促す。 「そうか?あ、でもお金を......。」 「何だ、案ずるな。もう支払ったよ。」 こんな事を言うとまた、私に悪いと言って意地でも自分で支払おうとするので 「金の事は後ででいい。今は、帰ろう。」 そう〇〇にぴしゃりと言った。そんな義理堅いところにも惚れ込んだのだが。 「わかったよ。じゃあ藍さん頼む。」 〇〇が私の背に乗る。背中越しに伝わる〇〇の体温。とても心地良い。 できる事なら、正面から抱き締め、〇〇の匂い、温もりを感じとりたい–– でもそれは後々できる事だ。 「では鈴仙。帰りの道案内を頼みたいのだが......。」 「はい。お師匠様から〇〇さんの事、頼まれましたので道案内ぐらいしますよ。」 正直、〇〇と二人きりで居たい......。 だが我慢だ。あと少しなんだ...。 「ではよろしく頼む。」 「鈴仙さん、お願いします。」 「任せてくださいな。」 ようやく、生意気な薬師から解放された。気が付けばもう、午の刻を過ぎていた。 ではとっとと帰って、〇〇の昼食でも作るとしよう。彼は何でも美味しいと言ってくれるので、何を料理しようか悩む。 「なぁ〇〇。昼は何を食べたい?」 「そうか、もうそんな時間か。う~ん……。悪いんだけどさ、中華料理とかってやつ作れる?前に里に来た外来人が話してたんだよ。聞いた時から食ってみたくってさぁ。藍さん、色々知ってるし。出来たらだけど……。」 中華料理……。成る程、確か以前、紫様が急に食べたくなったと言って私に無理矢理作らせた事があったな。ま、当然、その様な物、私が知らない筈がなく、完璧に作り上げたが。 「出来るぞ。中華料理なんて私にかかればお茶の子さいさいだ。」 「おー。流石、藍さん。朝飯前ならぬ昼飯前ってか!」 よし、その時以上に美味しく作ろう。そして作ったら、そ、その、〇〇と……。あ….あーん……とかしちゃったり……。ふ…ふふ。うふふふ……。あー!もう!待ち遠しいなぁ………。 (………。う~ん。中華って何だろう。想像がつかないわ……。) ふと横を見たら、この兎が腕を組んで耳を垂らし、何か思考している様子だった。 その姿を見て何となく察した。わからないのか、と言って、知識を自慢してやろうかと思ったが、こんな奴に口授しても意味ないな思い、話すのを止めた。 そうこうしているうちに竹林を抜けていた。もう、兎の案内は要らないな。 礼の言葉を言い、鈴仙を永遠亭に帰したその時---- 「見つけたわよ、藍。いったい、何してるの?」 紫…様……?何故、此方に……。 「うわっ!お、驚いた。変な空間から出てきた…。妖怪か?」 「あら、スキマから失礼。私はこの幻想郷の管理者、八雲紫ですわ。でもそんな事はどうでもいいの。藍。貴女、仕事すっぽかして何してるの?おまけにそんな姿になって、人間にでもなったつもり?」 ……っ‼ い…いまの……。〇〇に…...き…聞かれた? 「八雲…紫……。ってあの!?へぇ、初めて見たなぁ。…ん?今、人間の姿って言った…?」 「ちっ...ちがっ.........。」 違うと叫びたいのに声が出ない。どうにか、言い訳をしたいのに頭が真っ白になって言葉が出てこない。恐い。本当は人では無いと知られたく無い。 胸がつかえ、ほろほろと涙が出る。 「そう…そういう事ね。貴女、最近やけに機嫌良かったからいい事でもあったのかと思っていたけれど…。人間に見初めてたのね。でもね、藍。それは叶わない事よ。分かっているでしょう?なら戻ってきなさい。貴女の居場所は其処じゃないわよ。」 また、言われてしまった…。あの薬師に続き、紫様にまで…。 「ちょっ、ちょっと待てよ!話についていけねえよ!藍さんが人間じゃ無い?それに戻れって…。」 「ええそうよ、藍は私の式神。八雲の名を与えた妖獣。理解した?」 もう...嫌だ.........。ようやく〇〇への想いを確認できたのに…。共に生きようと心に誓ったのに………。このままでは………。つらくて、つらくて、いっそ明かしてしまおうか…。 「………。藍さん。本当なのか?答えてくれ。」 「………………。ああ、本当だよ。」 言ってしまった…。〇〇の顔を見れない……。舌を噛んで死んでしまえば、嫌われずに済むかな……。 「そっか。有難う、本当の事言ってくれて。」 …………? あれ?今、彼は何て? 「貴方、ちゃんと聞いてた?藍は、妖怪なのよ?貴方の事を騙していたのよ?普通は怒ったりしない?」 「無い腹を立ててどうすんのさ。俺は騙されたなんて思っちゃいないね。藍さんは俺の恩人で善人だ。そんな人を妬めって?冗談。藍さんがどんな姿だろうと構いやしねえよ。」 〇〇----。 いいのか?いいんだな?そんな事、言われたらもう、歯止めは効かんぞ! 「〇〇—!!大好きだ!!愛してるぞー!!」 元の姿に戻り、彼に抱き着く。ああ、この匂い、温もり、堪らない!!絶対に離さないぞ!! 「えっ!!まじで!!そうだったの!?見初めたっていうのはそういう…。.…じ、じゃあ俺も好きだー!!」 「!! 本当か!?今の言葉、忘れないぞ!確かに聞いたからな!」 「はぁ…。藍と恋仲になると大変だっていうのに……。精々短い間、愛し合いなさい。命果てるその時まで……。」 いえ、大丈夫ですよ、紫様。 もう、決めましたから。〇〇が死ぬ時は私も死ぬ時です。 そしてまた、愛し合うのです。ずっと、ずーっとね……。
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幻想郷の夏祭り ボーカルは小峠舞。 ジャケットはこの曲を収録した、2015/08/14頒布の「66-Sixty six-」のもの。 BASIC MEDIUM HARD Level 4 7 9 Objects 151 298 490 BPM - TIME - Artist C-CLAYS Version VOLZZA Original 東方心綺楼 幻想郷の二ッ岩 動画 攻略 名前 コメント ※攻略の際は、文頭に[BASIC] [MEDIUM] [HARD] [SPECIAL] のいずれかを置くと、どの譜面に関する情報かが分かりやすいです。 コメント(感想など) 名前 コメント ↑攻略と無関係の曲に対するコメントはこちらでお願いします。あまりにもかけ離れた内容は削除される場合があります。
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その日、○○が目を覚ますとすでに午後になっていた。 夜中、何度か悪夢を見てしまい、その度に起きてしまい普通に寝ることができたのは日が昇ってからだった。 完全に妖怪になってしまい、人里の知り合いを喰らい、霊夢や、慧音に退治される夢だった。 阿求の家に泊まってから数日、自身の妖怪化に関する調査は中々進んでいなかった。 「平気な気でいたけど、結構妖怪化に恐怖してんのかな、俺」 悪夢を見て気分がよくないせいか、今日は調査で外を歩き回る気にはならなかった。 というか、すでに大体の知り合いの元を訪れておりこれ以上頼れる人物はいない。 ちなみに元同僚が口を滑らしたらしく、人里の守護者の慧音を訪れた際には黙って外界に帰ろうとしたことのお仕置きとして頭突きをくらった。 また、映姫もどこで知ったのか知らないが、その情報を掴んでおり、お説教をくらった。 チラッと聞いた話によると特別なアイテムで帰ろうとしたところを見たとかなんとか。 そのアイテムで犯人がわからないかと聞いたが裁判でもないのに使うわけにはいかないらしい。 「え?映姫様、じゃあなんで俺が帰ろうとしたとこみて…」 「なにか文句でも?」 「なんでもないです!」 すごい目で睨まれたのでそれ以上突っ込むんで聞くことができなかった。 さらに映姫からは 「妖怪になって仕事がなくなってしまったら、私の助手として働くといいでしょう。 というか、今すぐ助手になりなさい。それがあなたにできる善行です」 というお言葉をいただいた。 もしかしたら、映姫は犯人を知っているけれど、自分を外界に行かせたくないから黙っているんじゃないかなぁと思ってしまった○○。 「それにしても…」 阿求のもとで調べた資料によると妖力は中途半端に体内にある場合は勝手に少しずつ抜けるらしい。 あれから体内の妖力は抜けていっているのだろうか?それとも何者かによって現在進行形でちゃくちゃくと溜まっているのだろうか? 「そういや、初日以来調べていないな」 ○○の体内の妖力を調べたのは霊夢と阿求ぐらいか。 もしかしたら、ずっとついてきて来ていた文も増減にはきづいているかもしれない。 「はぁ…」 増えていたらどうしようと不安になる。 妖力が増えるようなことはしていないが、そもそもなぜたまってしまったかの心当たりがない。 一番有力なのは妖怪に妖力を流し込まれていたという方法だが、この方法はほぼ1日中一緒にいるぐらいじゃないと効果がないらしい。 例えば、最近よく日中行動を共にしている文が常に妖力を流していたとしてもあまり体内にはたまらず、別れて朝までには抜けてしまうらしい。 食べ物系でたまってしまった場合はやけに体内に残ってしまうらしいが。 「ああ、怠い。気分がすぐれない。歩きたくない。でも、妖怪化はやだ。外界に帰りたい。寝たい」 「あやや!なにを愚痴っているんですか」 「びっくりした!文か」 「お邪魔しますよ」 「え?今俺愚痴を口に出してた?」 「ええ。玄関の外からも聞こえてましたよ。玄関先からじゃ気付いてもらえないと思い、勝手に入らせてもらいました」 気が付くと文が家に入ってきていた。 とりあえず○○は布団を片づける。片づけ終わって落ち着いてみてみると、文が一升瓶を持っていることに気が付いた。 「いつもの奴?」 「ええ。久々にパーっとやりましょう。なんか鬱憤溜まってるみたいですしね」 以前からちょいちょい○○と文はふたりで酒を飲むことがあった。 いつ頃からか、文が文曰く天狗が作った人間用の酒を持ってくるようになった。 人間用というだけあって○○が酔いつぶれずに飲めるうえ、天狗が作っただけあって美味い。 さらに文がただで提供してくれるだけあって定期的に持ってくるのを楽しみにしていた。 (帰るつもりだったから、もう飲まないつもりだったが…ああ、でも外界のメーカーの缶ビールもそれはそれでなつかしいなぁ…これはこれで美酒だから今回もいただくが) そんなことを考えつつ、文が台所から食器を持ってきている間そんなことを茫然と考えていた○○だがふと、なにかが気になった。 「うん?」 脳裏に何かがちらつく。その正体について考えているうちにいくつかのキーワードが思いつく。 ほとんどが最近の調査で得た知識だった。 酒。 定期的。 食物により妖力の体内残留。 (いや、まさか…) 否定しようとしても、一度脳裏をよぎった疑惑は消えることはなかった。 (まてまて…確証がないじゃねえか。あくまで可能性の一つだ。てか、今日ちょっと我慢すりゃ違うってことを確かめられる) 「はい、お待たせしました~」 文が食器を持ってきた。 一升瓶の中の酒を注ぐ。 「あのさ、文」 「なんですか?」 「悪いけどさ、俺飲まないでおくわ」 「は?妖力のせいでおかしくなりましたか?酒好きの○○がそんなことを言うなんて」 「最近の飲み過ぎたからな。肝臓とかマジでやばい」 「人間用だから大丈夫ですよ?」 「いや、普通に人間の酒も飲み過ぎたら肝臓やばいからね?送迎会とか貯蔵してた酒の始末とかで結構飲んだんだよ最近」 「私の酒が飲めないっていうんですかこの野郎!」 「おやじかお前は」 「そんなこといって飲みたいくせに」 実際文の言った通り酒好きの○○にしてみればこの我慢は辛かったが。そうした場合の文の反応を見たかった。 そして、この酒を飲まなかった場合の数日後の自分の体内の妖力の変化を。 「飲まないっつーの」 「まぁ、そう言わずに」 「そういう気分じゃないんだよ」 「いいから、まず一杯どうです」 「いーらーなーいー」 「タダ酒ですよ?」 ○○は文の言動に違和感を感じた。 さすがに少し、しつこ過ぎる気がする。まるで○○がこの酒を飲まないことでなにか文に不都合なことがあるかのように。 「だいたい、健康に気をつけて酒をやめるようなタマじゃないでしょう、あなたは。 どうしたんです?この酒を飲まない理由なんてないでしょう?」 「う…まぁ、そうなんだが…あ!そうだ、願掛けだよ。願掛け」 「願掛けですか?」 「そうそう。調査に進展ないし、気分もぐだってたからな。自分を追い込むためにも。俺は酒を絶つ。禁酒だ。 今度酒を飲むのは外界に帰った先での缶ビールだ!」 「…」 「文?」 「いいから、飲みなさいよ!いつもみたいに…」 「なんで素になってんのお前?」 やっぱり、酒を飲まないと言ってからの文はどうもおかしい。 ○○は、自分の疑惑が、嫌な予感が当たってしまったのではないかと不安になっていった。 「落ち着けって。逆にさ、お前がこの酒を俺に飲ませる理由もないわけじゃん。だからさ…」 「ああ、そういうことですか」 「なんだよ」 「○○って馬鹿ですけど、頭の回転はそこまで遅くないですもんね」 「褒めてんの?けなしてんの?」 「この際、はっきり言わせてもらうわね」 文が敬語ではない素の口調になる。 「あなたに妖力を溜めさせて外界に帰れないようにしたのは私よ」 「…!!」 疑惑はあった。それはだんだんと確証となっていた。 それでも、本人からこんなにもあっさりと言われたことで○○は言葉を失ってしまった。 「この酒を飲まなかった時点で薄々気づいていると思うけど、方法はこの酒。 人間用の酒なんて嘘をついたけれど、本当は人間を天狗にする為の酒なのよ。 期間をあけて飲酒としての適量を飲むだけだったから、天狗になりきらず妖力だけ溜まっている状態になっているの」 「なんでだよ…なんでだよ文!?」 「疑問に思うのも無理ないわよね。話すわ。ただ、順を追って話すからね。 ねぇ、○○。この世で一番素敵なことは何だと思う?」 かなり話がそれた気がしたが、順を追って話すということだったので○○は止めなかった。 素の状態の文は、自分の言いたいことをはっきりと言うのではぐらかしたり、嘘をついたりしているわけじゃないことは今までの付き合いからわかっていた。 ただ、この突然の質問に答えることはできなかった。 文は、回答を求めていたわけではなかったらしくすぐに続けた。 「私は、好きな人、愛おしい人の笑顔、姿を見ていくことができることだと思うの。 私個人の考えであって、押し付ける気はないけどね。…ううん、こうなった以上、押し付けているようなものなのかもね。 とにかく好きな人の姿を見ていくことが私は幸せなことだと思う。 笑顔が一番だけど、働いたりして必死に生きていたり、なんの目的もなくフラフラとぶらついている姿でもいい。愛おしい人を見てるだけで他はなにもいらないって思える。 まぁ、その人と一緒になれるなら、それが本当に一番なんだけどね」 「いや、ちょっと待て。その話の流れだと…」 「そう。私は○○のことが好き」 「ま、マジっすか…」 (あなたのことを好きなのは私だけじゃないけどね。この鈍感)ボソッ 「え?なんか言った?」 「なんでもないわ。とにかく私はあなたのことを見ているのが好きだった。 だけど、あなたは普段からよく言っていたわよね。いつか外界に帰るって。それは嫌だっただから…」 「だからってお前、こんな方法…」 「酷い手だという自覚あるわ。 ただ、言わせてもらうと私も時間をかけて説得する気ではいたのよ。帰るって言い出したらなんとか理由を付けて滞在を伸ばさせつつ。 この酒は、保険のつもりだったのよ。普通に美味しい酒を一緒に飲みたいっていう気持ちもあったしね。 そうしたら、あなた誰にも言わずに帰ろうとしたじゃない」 「あ、あれは…」 「帰るときは言ってくれると思ってた。でも、あなたからは言ってくれなかった。 私は普段から、遠くからあなたのことを私は見て、見つめていたの。 そうしたらあの日、あなたは普段行くことのない博麗神社に向かった。外界に帰る為に。 この時から、正攻法の説得を諦めたわ。見送りのせいで帰りたくなくならないように誰にも言わないで帰ろうとするほど帰りたいのだと思ったから。 だから帰るという情報を嗅ぎつけたから見送りというていで合流させてもらった。どうせ体内の妖力のせいで帰れないから」 「文…お前…」 先に、皆に言わないで黙って帰ろうとしたのは○○だ。いや、時系列的には酒の方が先なのか? ともかく、そういう意味では○○はみんなを、文を裏切ったといえるだろう。 それでも、自分勝手だという自覚はあるけれど○○は文の行動に怒りを覚えてしまった。 裏切ったしまったという自覚がある手前、叫んで糾弾したりはしなかったが○○は文に聞いた。 「こんなことして、バレて俺に嫌われるとは考えなかったのか? 俺の性格上、少しは自分の体について調べるかだろうことは予想できたろう?できたよな? バレた時のリスクを考えずにこんなことしたのかよ?なぁ?」 妖力が体内に溜まっていなかったら勝手に帰っていたことを考えるとリスクを侵してでもやる意味はあるのではないか?内心はそういう考えがあるのはわかっていた。 妖怪化するのが目的ではく、勝手に帰らないための保険としてある程度の妖力を溜めさせるのが目的なのも理解しているつもりだ。 しかし、それでも友人に騙されて自分にとっては未知な力を体内に溜めさせられていたショックで聞き方がだいぶ棘のあるものになってしまっていた。 「別に嫌われてもよかったのよ」 「…その考えは理解できねえよ」 「確かに、一番の理想はあなたが妖力の謎の解析を諦めて幻想郷への永住を決めて、私と添い遂げてくれること。 監視の意味もあったけど、着いて行って手伝ったのは好感度をあげたかったっていうのもあるのよね。我ながら卑怯ね。 少しは罪の意識もあったからっていうのもあったけれど、だから情報をまとめる手伝いはしっかりやったけれど…いや、これは言い訳になるわね。 情報をまとめても選択肢が多いから真相にたどり着きはしないと思ったんだけど、あなたのことをなめてたのかもね。 でも、バレて嫌われてしまってもよかったから手伝えたのかもね」 「だから、それはなんでなんだよ」 「理想はともかく、優先順位的にはあなたを見つめていきたいというのが一番だったのよ。 たとえ、嫌われようとも、一生口を聞いてくれなくなっても…目の届く範囲に、幻想郷にあなたがいることが重要だった。 正直、どこかに監禁とかされなければあなたが誰かと世帯を持って、子供とか育てていくのを遠くから見てるのでもいいのよ。 例え、私の事なんかを忘れていても幸せそうなあなたを見ているだけで私も幸せになれるから。あなたが天寿を全うするのを、あなたの人生を見つめていたかった。 だから、バレたら嫌われようと絶交されるリスクがあろうと、あなたが勝手帰らない為の保険として妖力を溜めさせたの。 …散々以外だったとか言ったけれど、あなたなら言わないで帰ろうとすることがわかっていたのかもね」 ここで文は大きくため息をつく。 「見つめていければいいとはいっても、あなたに私の知らない女性の知り合いがいたと聞いて驚いてしまったり、他の女を心配することが妬ましかったり未練タラタラだったけどね。 …ねぇ、○○。逆に聞いてもいかしら?」 「…なんだ?」 「ことの真相を知って、あなたはこれからどうするつもり?」 「俺は…」 今まで結構いい加減に生きて来て、その場その場で都合のいい嘘をついたりしてきたことも多い○○。 だが今は、阿求の時の様に事前に誓うこともせず、正直に自分の想いを言うべきだと思った。だから、本心を口にする。 「妖力が溜まっていたのがこの酒が原因だっていうのならもう飲まない。 定期的に追加で摂取しないならそのうち妖力が抜けるらしいから、抜けたら外界に帰る。それだけだ」 「そう…今度は本当のことを言ってくれてありがとうね」 「もしかして、以前の取材で都合のいい嘘をついたっての根に持ってる…?ってうわ!」 いきなり文に押し倒され馬乗りにされた。 「待て、取材で嘘をついたことは謝る!」 「それを謝るぐらいなら勝手に帰ろうとしたことを謝ってほしいけれど、そんなこと言える立場じゃないわね」 「なんだよ、どうしたんだよ?」 「言ったでしょ。幻想郷からあなたがいなくなるのが嫌なの。あなたに嫌われようと恨まれようとそれだけは阻止させてもらうわ。 それにはどうしたらいいかわかる?」 文の手には例の一升瓶があった。 「…!!まさか」 「そう。まずはこの一升瓶。それが終わったら私の家に連れて行って貯蔵してあるこの酒を飲んでもらうわ。無理やりにでも」 「文…やめ…」 ○○の口の中に無理やり酒が流し込まれる。 「○○。許してくれなんていわないわ。だけど、これだけは言わせて」 無理やり酒を飲まされ、パニックに襲われてなんとか文の下から逃げようともがく○○。しかし妖怪と人間の力の差かそれは叶わない。 そんなパニック状態の○○の耳にも文の言葉は思いのほか鮮明に聞こえていた。 「ごめんなさい」 <続く>
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二つに分けてみました お燐の日記 最近、さとり様が新しいペットを飼い始めた。外から来た○○と言う男だ。最初はあたいが猫車で仕事をしていた時に偶然見つけて、さとり様のところに連れていってやったのだが、どうやら気に入られたらしい。明日ぐらいに歓迎会でもしようかな。 お空の日記 新しく私達以外のペットがやって来た。名前は○○って言うらしい。一緒に住む事になるから忘れないようにしないと。間違えて攻撃したらさとり様に怒られてしまう。でも、仲間が増えたのは嬉しい。仲良くなれるといいなぁ。 さとりの日記 お燐が連れて来た○○。前に来た紅白や白黒とは違い、どこか暖かいものを感じる。それが多分、私があの人を地霊殿に受け入れた理由だろう。彼にはペットとしてここに居させているということは伏せておく。彼のプライドが傷付くかもしれないから。 ○○の日記 鉱山を探検していたらいつの間にか知らない建物の前に居た。自分がいる場所が何処なのか分からず、どうすればいいかも分からなかったため少し混乱していた。その時にお燐と言うネコミミの少女に声を掛けられた。最初はコスプレかとも思ったが、触ってみたら本物だった。そして、この建物の主だというさとり様という人に会った。最初に見た時は小さい女の子にしか見えなかったが、物腰や態度で違うと分かった。しばらくの間は此処に住まわしてもらえるらしい。明日からは何かしら手伝える事がないか聞くことにする。 お燐の日記 今日は○○から魚を貰った。○○からしてみれば、たたの気まぐれでの贈り物だったのかもしれない。けど、あたいにとってはとても嬉しいプレゼントだった。何かしらのお返しを考えないと・・・ お空の日記 今日は○○に私の技を見せてあげた。こんなふうに技を見せるとほとんどの奴らは逃げ出したり、わめきちらす奴らが多いけど○○は違った。逃げ出したりもしないでただ私に「凄い」と言ってくれた。ただそれだけの事たったのに、私は私の中の力が溢れ出すような気持ちになった。○○にもこの気持ち伝えたいなぁ・・・ さとりの日記 ○○が地霊殿に住みだしてけっこうな日にちがたった。お燐やお空とも仲良くしてるし、私とも良い仲だと思う。今度、こいしが帰って来た時に紹介しようかな。 ○○の日記 地霊殿に住んでから色々な事があった。お燐の猫車に乗せてもらったり、手を捕まれてお空と一緒に空を飛んだり、さとりさんと喋らずにどこまで心で会話できるか試したりもした。どれも楽しい思い出だ。けど、そろそろ元の世界に帰りたくなった。最近耳にしたんだが、どうやらこの上には地上があるらしい。地上に出れば元の世界に戻れる方法が見つかるかもしれない。明日ぐらいに地上に出る方法を調べることにする。それはそうとして、最近なにも無い所から視線を感じることがある。気のせいだろうか? お燐の日記 ○○がいない!地霊殿のどこを探してもまったく見つからない!どこにいったんだろう・・・ お空の日記 ○○が消えちゃった!お燐が地上を探すから私は空から○○を見つけようとしたけど、結局見つからなかった。どこにいるの?○○。 さとりの日記 彼の心が感じれないと思ったら、いつの間にかいなくなってしまっていた。もしかしたら誰かに連れて行かれてしまったのかもしれない。明日はもっと探す範囲を広げようと思う。 ○○の日記 キスメという桶の中に入っている少女が地上まで上げてくれるらしい。地霊殿のみんなには悪いが、別れが辛くなるから挨拶はしないで来た。ごめん。そしてありがとう。地霊殿のみんな。 お燐の日記 ○○が見つかった。地下の入口辺りにいたところをお空と一緒に捕まえた。なんで○○があんなところにいたかは分からなけど、無事で安心した。今度からもっと近くにいないと駄目だ。あたいが近くにいてあげないと。 お空の日記 ○○がいた。私は嬉しさのあまり抱き着いたが、○○は驚いたらしくひどく暴れた。暴れたままでは連れて帰れないので、少し静かにしてもらうために私の右腕で頭の後ろを叩いた。私は一度増えた仲間がいなくなるのは嫌だ。だから○○には仲間としてずっと一緒にいてもらわないと。ずっと・・・ずっと・・・ さとりの日記 ○○の心の中を見た。やっぱり地上に出ようとしたのは本当らしく、外の世界に帰ろうとしたのも本当らしい。なにがいけなかったのだろう。確かになにも変なは事はなかったはず。なのにどうして・・・。あぁ、忘れてた。○○は私のペットだ。悪いペットにはしっかりと教育しないと。私の能力で・・・ ○○の日記 (地霊殿の大切な物を入れる倉庫に保管されている) こいしの日記 お姉ちゃんが○○を気に入るのもわかる気がする。わたしも○○の事が好き。○○は地霊殿から出られなくなったことだし、そろそろ○○の前に姿を表わそうと思う。どんな反応してくれるかなぁ。
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タグ一覧 紫 藍 紫「……本当のお母さんに会いたい?」 ○○「うん!お姉ちゃんに聞いたら僕を産んでくれた人間のお母さんがいるって!」 紫「……藍?」 藍「も、申し訳ありません。私達と○○の種族の違いを聞かれて誤魔化し切ることが……」 紫「馬鹿……ねえ○○、ママ達が本当の家族じゃないって聞いて嫌じゃなかった?」 ○○「なんで?ママとお姉ちゃんはママとお姉ちゃんでしょ?大好きだよ?」 紫「……ふふ、そうね、その通り。うん、分かった。本当のお母さんに合わせてあげましょう」 ○○「本当!?」 紫「ママが○○に嘘ついたことあったかしら?」 ○○「ううん、ない!やったー!」 紫「ふふ、じゃあママ達はお母さんを探すから、向こうで橙と遊んでてくれる?」 ○○「はーい!」 藍「……ゆ、紫様、よろしいのですか?○○は赤ん坊の時分にこちらに流れてきた子。良い結果になるとはとても……」 紫「あら、悪い結果になったらあなたは○○を見捨てるの?」 藍「まさか!血は繋がらなくとも私はあの子の姉ですよ!?」 紫「ええ、知ってるわ。だったら何を恐れることがあるというの?○○が傷ついてしまったら癒えるまで私達が傍に居てあげるだけでしょう?それとも、あなたの懸念はあの子の願いより優先すべきことなの?」 藍「!……すみません、私としたことが……」 紫「いいのよ、藍の考えも正しいのだから。もしもの時はいっぱい慰めてあげましょうね」 藍「はい、身命を賭して」 紫「大袈裟ねえ。さて、じゃあお母さん探しをしましょうか」 藍「見つかりますか?」 紫「当然。けど、両親共に不慮の事故に会っててお墓参りに行くってオチだったりしてくれないかしらねえ……」 ─────────────────────────────────────── ○○「ここにママが来るの?」 紫「ええ、もう少しで来るから、会ったらちゃんとご挨拶しましょうね」 ○○「うん!」 藍「…………」 紫「藍、表情が暗いわよ?」 藍「暗くもなります。○○の母親は……」 スッ △△「…………」 ○○「あ、お、お母さん?はじめまして、○○です!」 △△「…………」 紫「あら、△△さんは耳が聞こえないのかしら?」 △△「っわ、私に何の用!?あんな脅しまでして!」 紫「脅しとは心外ですわ。あなたのお子さんがあなたに会いたいと言うので会わせてあげようかと思ったまでです」 ○○「お母さん?お母さんなんでしょ?僕○○っていうんだ!産んでくれてありがとう!」 △△「っ……黙れクソガキが!!」 ○○「ひっ……」 △△「お前、お前さえいなければ私はあの人に捨てられなかったんだ。たった一度別の男と寝ただけじゃない。なんでこんなことになるのよ。なんで私の体に宿ったのよ……」 ○○「お、お母さ──」 △△「私を母と呼ぶな!なんで産まれてきた!私は望んでなかったのに!捨てたのに!なに勝手に存在してるんだよクソガキ!」バシッ ○○「あぐっ……ぅ、うぁ……」 ○○「うわああああああああぁぁぁぁぁん!!!」 ぞわっ 藍「貴、様っ……!!」 △△「ひっ、ぁ、あ……」 紫「藍、あなたが今すべきことは泣いている○○を放置して暴れること?」 藍「!」 藍「○○、痛かったな、怖かったな。もう大丈夫だぞ。お姉ちゃんが抱っこしてあげるから、あっちに行ってような」 紫「…………さて」 △△「っ」ビクッ 紫「ああ、別にあなたをどうこうしようとか思ってないから安心して頂戴な。ただ一つ確認をしたいだけ」 △△「確、認?」 紫「そ。まあさっきのを見て分かっているんだけど、最終確認。あなた、○○を引き取りたいと思ってないのね?あの子に愛情は欠片もないのね?」 △△「お、思うわけがないでしょう!私はアイツのせいで──」 紫「ああ、あなたの事情は興味無いわ。じゃあ、私達が引き取っていいのね?」 △△「好きにすればいいわ。もう私には関係ない」 紫「言質は取りました。ふふ、ありがとう」 △△「も、もういいでしょう?私は帰るわよ!」 紫「お好きに……ああ、最後に一つ」 △△「なによ──」ゾッ 紫「あの子を捨てるに飽き足らず、今また傷つけたあなたに……平穏な死が待っているとは思わないことね」 △△「ひっ……!」ダッ 紫「……人のことは言えないけど、愚かね」 藍「紫様、あの女はどうしますか?」 紫「どうもしないわ。何もしなくてもまともな人生なんて歩めないでしょうし。それより○○は?」 藍「泣き疲れて先程眠りました……私達はきっと地獄に落ちますね」 紫「あら、分かってた?」 藍「少し考えれば分かりますよ。紫様は○○の願いを引き合いに出しましたが、○○を母親に会わせたのはあの子の縁を断ち切り、人間そのものに隔意を持たせるためですね?」 紫「ええ。こうでもしないと○○の意識はいつか外に向いてしまうもの。そうなれば私達は育ての親と姉にしかならない……あの子の女になれない」 藍「そうですね」 紫「へえ、藍は姉で満足していると思っていたのだけれど」 藍「ふふ、私は紫様の式ですよ?」 紫「馬鹿にしてる?」 藍「いいえ、感謝しています」 紫「言うわね…………今回、私達は私達の都合のために○○を利用し傷つけたわ」 藍「はい」 紫「以後、このようなことは許されない……いいわね?」 藍「承知しました」 紫「その上で、○○の全てになるの」 藍「母であり、姉であり、友人であり、親友であり、恋人であり、妻である」 紫「ええ。私達の全てを以てあの子の世界を完結させる。もう二度と外へなど関心さえ持たせない」 藍「私達が育て、私達が作ったものだけを食べ、私達だけを抱き」 紫「望むのであれば私達と同じ時を生きて、いつか私達の手に抱かれて死ぬ」 藍「嗚呼、○○」 紫「私達の可愛い○○」 「「愛しています」」 感想 名前 コメント
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後輩の女の子 後輩の女の子とはぷーれの後輩の女の子である。詳細は不明。 ゼルダの伝説ブレス オブ ザ ワイルドで、 リンクの顔を見たぷーれの発言 で存在が発覚した。 どうやら顔がオブルドのリンクと似ているらしい。その他の情報は不明である。今後のレスワイ枠やぷーれwikiを見る枠で情報が得られるかもしれない。 ぷーれは仕事で後輩を殴っていると自白することが多々あるが、この女の子が殴られているかは不明である。どうやら大学の後輩の女の子らしい。ぷーれが殴っているのは職場の後輩なのでこの女の子が殴られているわけではない。安心である。 関連項目 あbot
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萃香の場合 家も店もまばらな人里の外れ。 明るい活気ある人里と対象に明かりの一つも無ければ物音も無い。 その家に鬼と男が居た。 部屋を大きく陣取る布団を男は被っている。 その横に寄り添うように寝た鬼はふと、何か思い出し。 布団の中の男の耳元に顔を近づけた。 『…そういえば今日は節分だね。』 『懐かしいだろ○○。』 『ここに来て間もなかったお前が逃げ回ってたわたしを…。』 『わたしを匿ってくれた…嬉しかったさ。』 そう言って鬼は男を抱き寄せる。 男も鬼を抱き返そうとする。 『毎年そうしてるうちに一緒に暮らし始めて…○○?』 鬼は自分に触れた男の腕が震えていることに気がついた。 男は腕に強く力を入れて放そうとしない。 鬼は空いている手で震える頭を撫でた。 『…大丈夫さ○○。』 『気配を疎にしてるから見つかりっこないよ。』 『今まで世話になったんだ…今度は私の番だよ。』 『ほら、怯えないで…わたしが傍に居るから。』 『約束する、わたしがずっと守ってあげるからね。』 それを聞くと男のの震えはおさまった。 自分の恐怖が何処から来ているかもわからず。 男は目の前の安息に体を寄せた。 勇儀の場合 夜中に寝室に向かった。 考えてみればごく普通のことだが。 俺の手には豆の入った升があった。 「勇儀ー!」 『ん…お前も晩酌に来たのか?』 『丁度いい、一人酒で寂しかっ…。』 「鬼はー外!福はー…どうした勇儀!?」 豆を投げようとすると勇儀がうずくまった。 急いで勇儀の元に駆け寄る。 「勇儀、急にどうしたんだ…?」 背中を揺すっても声を掛けても微動だにしない。 顔を下に向けて手で押さえているので表情はつかめない。 そのまま勇儀は喋りだした。 『…ひどいじゃないか○○。』「え…?」 『冗談だったとしても…ショックだよ。』 『恋人に凶器を突きつけたようなものだぞ?』 今の勇儀は本当に萎れている。 いつもみたいに笑って済まされると思っていたが…。 突いてはいけないことを突いてしまったようだ。 「…その、ごめん。」 「勇儀…あのさ、俺…オワッ!」いつの間に天井を見ていた。 …押し倒されたらしい。 上に居る勇儀は…笑っている。 『まったく…私に豆をかけようとするなんて何百年ぶりだろうな。』 『いや、可笑しくて可笑しくて…。』 「騙しましたね…。」 『いいや、嘘は吐いてないぞ?』 『実際、当たったら肌が焼けるように痛いんだからな。』 『それ相応の仕返しはさせてもらうぞ?』 「それ相応って、勇儀…。」 『言っただろう?』 『恋人に凶器を突きつけられたんだ。』 『痛い目味わってもらわないとな。』 「はは…。」 俺は勇儀にとっての地雷を踏んでしまったらしい。 さっきの言葉が冗談と思いたいが…それは無いだろう。 …鬼は嘘は吐かない。 パルスィの場合 旧都。 忌み嫌われた者が住み着く地底の都。 だが自分の想像していた場所とは違った。 嫌われ者同士仲良く身を寄せ合い暮らしていた。 だけど…。 そんな場所でさえ疎まれる者がいる。 地霊殿の主、そして…自分の恋人。 『ただいま。』 「あっ、…おかえりなさい。」 「早かったですね、どうしたんですか。」 『そんなことはどうでもいいの。』 『○○…今後ろに隠したものは何?』 「い、いえそんな物は…。」 『また嘘吐いた。』 『何で簡単な約束も守れないの?』 『そんなにペナルティが欲しいのかしら?』 「うっ…ごめんなさいパルスィさん…。」 『…まぁいいわ。』 『さ、言いなさい…何を隠したの?』 「…めです。」 『…聞こえない、もう一度。』 「豆ですっ!」 「勇儀さんから豆を貰ったんですっ!」 「無駄になったからって…。」 『クスッ…豆ですって?』 『私を追い出せるとでも思ったの?』 『確かに鬼だけど橋姫には豆は効かないわよ?』 「それは…その。」 『他の女と喋っていたのは気になるけど…いいわ。』 『どうせあなたはこの橋から出られないんですもの。』 『それぐらいは許してあげる。』 『でも…ペナルティは必要よね?』 全てを受け入れる幻想郷で疎まれる者はどうなるのだろう。 自分を曲げてしまうのだろうか。 彼女にはそうなって欲しくない。 たとえ歪んでいても…自分しか受け入れる場所が無いのなら。 自分は彼女を受け入たい。 レミリアの場合 最近、俺は体を壊して館で寝込んでいる。 咲夜さんに言われてベッドで寝てばっかりだ。 館の外にも出ていないし日の光ともご無沙汰だ。 『○○。』 「レミリアお嬢様、如何なさりましたか?」 『お前はまだ病み上がりでしょう。』 『大人しく床に伏せていなさい。』 「…お言葉を返すようですが。」 「私ももう体調も戻りましたし。」 「いつまでも世話になるわけにはいきません。」 「仕事に復帰させていただきたいのですが…。」 『主に口答えする気?』 「す、すみません!」 「私が間違ってました!」 『…解ればいいのよ○○。』 『人間は弱いんだから…。』 「……………。」 『…気が利かないな、茶菓子が尽きたぞ。』 「申し訳ありません!今すぐに!」 厨房に行くと咲夜さんにできたてのクッキーを渡された。 流石はパーフェクトメイド…手際がいい。 お嬢様の元に急…おっ。 そういえば咲夜さんに止められて最近コーヒーを飲んでないな。 咲夜さんは向こうを向いてるし…。 …いただきます。 ……………! 「ヴぅ゛ッ、ググっ!」 喉が…焼ける?! 息ができな…。 「申し訳ありません…お嬢様。」 『…珍しいわね、ミスなんて。』 『○○は何故倒れたの?』 「はい、休憩中に呑もうと思っていたコーヒーを。」 『呑んだってわけ…。』 『そりゃ吸血鬼が炒った豆を呑んだらそうなるか。』 「申し訳ありません。」 「仮にもお嬢様の想い人に…。」 『まぁ大目に見るわ。』 『それにいずれは言わなければいけなかったんだし…。』 『…咲夜。』 「はい。」 『何と言えばいいんだろう…。』 『寝てるときに吸血鬼にしたなんて。』 『やはり威厳を持っているべきかしら?』 「…月並みな言葉ですが。」 「素直にいつも通りの態度で伝えるべきかと。」 『そう…ありがと。』 『じゃあ、いってくる。』 フランの場合 『○○…。』 聞き慣れ声に振り向く。 …妹様だ。 「はいはい、どうしましたか?」 『お話したいことがあるの。』 『いいかな…。』 「別にいいですよ?」 そう言って傍にあった可愛らしいベッドに腰掛ける。 彼女もベッドに足を投げ出し座る。 可愛らしいお顔は珍しく暗くうつむいている。 『そのね。』 『…○○は今幸せ?』 『私といて嫌じゃないかな…?』 「どうしたんですか急に。」 「…何かあったんですか?」 『ううん。』 『○○は外の世界で色々なことしてたんでしょ?』 『でもこの家はクリスマスもせつぶんもないし…。』 『私がむりやり〝けんぞく〟にしちゃって…。』 『…本当に○○は幸せ…?』 両手で自分の服をギュっと握っている。 特徴的な羽も垂れ下がって少し震えている。 気がつくと自分は小さな背中をさすっていた。 「…大丈夫ですよ。」 「始めは怖かったですけど。」 「一緒に居て好きって気持ちが嫌ってほど感じたし。」 「幸せ…とまでかはわかりませんけど…。」 「フランちゃんと一緒でよかったと思いますよ?」 『…そうかな。』 まだ不安そうだ。 何か元気にさせるようなことは…。 「…いいこと思いついた。」 「豆を撒かなくても節分はできますよ。」 『ホント!?』 「えぇ、恵方巻っていう巻き寿司を食べるんです。」 「咲夜さんに厨房を貸してもらえば多分できますよ。」 「やってみますか?」 『…うん♪』 彼女に笑顔が戻る。 やはりこの顔が一番似合っている。 彼女の手を握ると優しく握り返してきた。 …思った。たぶん自分は幸せなのだろう。